グローバル人材論、まとめ

昔書いた記事で「海外留学者が減少している(と言われている)ことについて」を考えた時に、特定の主張を評論するときに意外と使えるフレームワーク5W1Hだということに気が付きました。そこでグローバル人材論についても1.なぜ?(Why)2.誰のために?(For whom)という観点から考えてみます。

1.なぜグローバル人材にならなければならないのか。
いろいろな主張があると思いますが、大きく分けて、ポジティブな発想としては「グローバル化していく組織において、より複雑で規模が大きく、影響が大きいミッションに関われるようにするため」という発想と、ネガティブなものとして、「縮小する日本のマーケット内にとどまっていては、今後食べられなくなるから」という二つの理由があると思います。ここで時々「日本のため」とか言い出す人がいるのですが、そのロジックの成立の難しさについては後述します。

2.誰のためにグローバル人材にならなければならないのか。
これは自明であり、自分のため以外にありえません。自分の属している組織のため、となった瞬間にグローバル化を推進すべき主体はその組織のミッションになるためです。グローバル化が命題である組織が、それを個人の自主性にまかせる、というのは企業戦略としてありえません。これは「日本のため」というのも国家戦略として同様の問題を孕んでいます。

そこで次のステップとして考えなくてはいけないのは、グローバル人材論だけではこの議論は収束しない、ということです。つまり、

A.個人としてのグローバル化
B.組織としてのグローバル化
C.国家としてのグローバル化

の3つのグローバル化フェイズについてそれぞれ定義しなくてはいけません。
実行者・受益者は常に同一であり(ie:実行者が個人の場合、受益者も個人)、それぞれのパーティーは他のパーティーの利益になるように行動させることは他にインセンティブがない限り、基本的に不可能です。

ではここでA.B.C.について、グローバル人材/組織/国家とはなにか、ということを定義しておきます。

A.グローバル人材の定義
「自らの国籍以外の、どこの国籍の組織であろうと自らの能力で所属する組織を選択できる。」

B.グローバル組織の定義
「どこの国・地域においても、現地で適切な人材を用いて、マネジメントおよびオペレーションを遂行する運営母体を組織できる。」

C.グローバル国家の定義
「世界中から人材・組織を引き付ける​持続可能な税制・および法制度・社会インフラが意識的に整備されている。」

これがグローバル化論の僕の出した結論になります。

次に蛇足として、前述した「日本のために」個人/組織がグローバル化するべき、というロジックには以下の3つの理由により疑問符が付く、と思っています。

(い).グローバル化を達成した個人/組織は、雇用された国に所得税を払うか、利益最大化のためにマケイン諸島など、タックスヘブンを利用した節税スキームを構築する。

(ろ).利益が最大化される法制度を持つ国を利用する。

(は).パフォーマンスが最大となる最小の人件費しかかからない場所で雇用を行う。

グローバル化を達成した個人/組織が日本のためになるケースは以下の2ケースです。

(に).既存の組織において、日本に籍を置いたまま、海外で利益を上げる。

(ほ).新規に国内籍の組織を立ち上げ、海外で利益を上げる。

しかしこの二つの要件は(い)、(ろ)、(は)の要件により成立しません。

しかし金銭的な利益がなくとも、グローバル人材/組織が増えることにより、日本人ひとりひとりが幸福になる可能性を持つ選択肢が増えることや、日本という国の国際的なプレゼンスが高まることにはつながると考えます。こうした文脈の上で、グローバル人材/組織の増加は「日本のため」になるでしょう。