海外留学する若者が減少している(といわれている)件について考えてみる

はじめに
最近やたらといろんなところで「最近の若者は海外留学に行かない!けしからん!」と、憤っている人が多いのだけれど、多くの場合「海外留学=いいこと」という前提の上に語られていることが多く、非常に違和感を覚える。海外留学をする理由は何なのか、また「なぜ」海外留学が必要なのか、という点まで踏み込んで考えないとまったく意味の無い議論だ。逆に国内でがんばったほうが目的に適う人もいるはずだろう。例えば、材料化学やナノマシンの分野では日本は世界の先端をいっており、日本で研究をしながら対外発表の場を国際的なジャーナルや学会に求める、という方法がベストといった場合。ニュアンスがあいまいな外国語を使って学ぶよりも、母国語での深い理解を得ながらの方が成果が得られる可能性だってある。

そこで一般論として、「誰のために」「なぜ」現在留学することが必要なのかということを考えてみたい。

「誰のために?」
何人かの識者が国内の留学生減少(※1)を嘆く理由の一つに「国力が落ちるのを防ぐため、海外の知見を持ち帰ってきて欲しい」というのがある。つまり「国のために留学生よ増えてくれ」派である。「国のため」という価値観を否定する気はないが明治期から昭和初期のように、帝国大学進学者が同年代人口の0.01%だった「黎明期の日本を背負って立つ人材」である真のエリートならいざ知らず、大衆化したエリート層に「国のため」というお題目は恐らく通用しない上に、当時の目標であった技術・価値観の輸入と経済的な成長は達成してしまった。もし「国のために留学してくれ」というのであれば、それは明治期に行っていたように、国策として行うべきであって個人の責に帰する話ではない(本当に日本の若者に海外留学に行って欲しいのなら、10万人以上の外国人留学生に月に15万円も給付して、国立大なら授業料全額免除とかやって日本に来て貰っている場合ではないのでは?)。
もちろん個人の意思によって「国のために」留学する人もいるだろうし、素晴らしいと思うが、現在「誰のために」留学するかという一般的な問いの答えは「自分のため」ということになる。

※1:ちなみに「国内の留学生減少」というのが事実か、ということについては反論もでている。

キャリアに対するデータの真相 1
http://www.r-agent.co.jp/kyujin/knowhow/tatsujin/20101118.html

参照元:「オックスフォード大学及びハーバード大学へのアジアからの留学生数の時系列変化」
http://www.kotosaka.com/article/172793450.html#more

「なぜ?」
では留学することを決心した若者は何のために留学するのだろう。上位概念としては、1.キャリア2.好奇心、が考えられる。また1.キャリアは、1-1.研究者として1-2.就職する上で有利になるから1-3.海外でなければ得られない知見がある、といった項目に別れる。
研究者として海外に留学する場合、最先端の研究を行っている場所が日本ではない場合やシェイクスピアの文学の研究を行うためにイギリスに留学する、ということは十分なインセンティブになるだろう。
また、就職する上での優位性という側面から見た場合、中国・インド・韓国から海外への留学生の数はここ最近大幅に増えているが目的はあくまでも自国就職に有利だからであり、一定のインセンティブが働いている。日本においては就職活動の際に一定のネタにはなるが、専門職ではなく総合職という立場での採用を行う日本企業にとってはどの程度効果があるかは未知数であり、むしろ高いコストを払って、留学先で苦労しなくても旧帝国大学早慶レベルの人材はいわゆる「いい会社」に入社できてしまうので日本におけるジョブハントとしての留学のインセンティブは、留学することが一種のステータスだった昔と比べてかなり低下しているのではないか。
さらに自分のなりたいもの、成し遂げたいことが海外留学でしか得られない場合もあるだろう。将来IT関連で起業したいので、カリフォルニアの大学に行き、シリコンバレーとのコネを作る、など。
最後に好奇心としての留学についてだが、僕の大学時代の友人で、カポエラが趣味でブラジルに留学した人がいた。曲がりなりにも就職の際に多少有利になる英語圏への留学でもないし、よりによって格闘技留学である。が、このことは日本が豊かになり、さまざまな文化を受け入れることが出来る余裕が出来た左証でもあるし、こういった好奇心のある日本人がいることは誇るべきことだと思う。

まとめ
こうして考えてみると、日本人留学生の減少を嘆いている人たちの現状認識力のなさにびっくりする。なぜなら、

  1. 「国のために」留学する日本人を増やしたいなら、それは国策で行うべき(研究ポストの用意、留学した者の採用枠の拡大)
  2. 将来的には変わる可能性はあるが、日本において学生時代に海外留学する就職面(金銭面)でのインセンティブは一定の効果はあるだろうが未知数(社会人になってから海外MBAに進学するのはまた違う物語)
  3. 逆に日本の学問・ビジネス分野での世界的なイニシアティブを取れてないことを問題視してない(ジョブスが海外留学したか?)
  4. ※1の記事にもあるように、日本の若者が好奇心旺盛で、自分の興味の向くままにブラジルやメキシコやシリアなどに留学している現状を評価するべき


僕個人にとって海外留学に行くことは、1.英語スキルの向上2.多文化社会での経験3.ステータスゼロの状況でどこまで成果を出せるかという苦労経験4.就職に役に立つ「かも」、が目的だし、人生経験という意味では留学した方が良いとは思っているけど、そもそも必要がないのに留学するなんてインセンティブが働かないし、お金もかかるし生活は不便だし、留学生が減ってる!とか問題視している人たちって何なんだろうなと思って思わずまとめてみた次第。留学しないと就職面で/研究者になる上で極端に不利!みたいな状況になれば心配しなくてもみんな留学するから大丈夫だって。むしろお金を払って外国から「留学生に来てもらっている」現状から「お金を払ってでも日本に留学したい!」という状況に、どうすれば変えられるのか考えて実行することが、研究/ビジネス、ひいては日本の活性化という側面から見ると大事だと思う。この問題を考える際に、色々個人的な仮説はあるけれども、せっかく周りに日本と同様に経済的に成熟した国からの留学生が130人ほどいるので、彼ら/彼女らに留学のインセンティブは何か、ということについてインタビューしてみようと思う。結果はまた後日。